Review: PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話

事業としてのPIXARに着目した書籍

PIXARの事業的(収益的)な面に踏み込んだ書籍は、本書が初です。著者であるLawrence Levyは、1995年にPIXARへ就任し、2006年にディズニーがPIXARを完全子会社として買収するまで、PIXARの経営面を支えます。スティーブ・ジョブズ、PIXARの社員、ディズニーとの間で、板挟みになりながらもPIXARを世界的に成功した会社まで押し上げた功労者です。

PIXARのスタートアップ期では、ジョブズが自費で金銭的なサポートをしていた話は、有名です。しかし、ジョブズが早期IPO(新規公開株)を期待していた事、ディズニーと契約面で争う際の経過や、最終的にディズニーにPIXARを売るまでの判断に至る背景は、今まで書籍で語られる事がありませんでした。

大規模かつクリエィティブな会社が、どのように存続してきたかを知りたい方には、おすすめの一冊です。

                               

PIXARのクリエイティブ面に関しては、他書籍がオススメ

PIXARの魅力は、技術を駆使した3D映像美だけではなく、ストーリーライティングと言えます。

本書中にも、その事を表す一文があります。

「きれいなグラフィックスを作れば人を数分は楽しませることができる。だが、人々を椅子から立てなくするのはストーリーなんだ」

John Alan Lasseter

この一文には、大いに賛同できます。近年の漫画・アニメ・ゲームは、コピーのコピーのようなテンプレート作品が多いです。しかし、PIXARは観客の視点に立って、簡潔に感情へ訴えかけるストーリーを書き続けています。そして、その魅力に惹きつけられてしまいます。PIXARの影響か、最近のディズニーも一昔前よりストーリーの出来が向上しています(続編ものの粗製濫造を止めただけな気もしますが)。

PIXARの作品の作り方は、過去に語られた記事(「ピクサーの作品に秘められた物語を書くための22の法則」)がありますし、以下の書籍でも丁寧に説明されています。

                                    

ジョブズの人間らしい一面が垣間見えた

序盤(トイ・ストーリー製作中)のジョブズは、ただの面倒くさい上司です。自費で5000万ドル以上の資金援助していたせいか、口を開けば「IPO(新規株公開)しろ」としか言いません。自身がAppleから追い出されてから立ち上げたNext Computerが成功していないせいか、PIXARの成功(夢物語)を頻繁に口にします。

しかも、ジョブズはPIXAR社員に対してストックオプションに関する約束を保護していたり、心の中で適切な評価をしていない事を社員に見抜かれていて、嫌われています。ここまでは、よく知るジョブズ像です。資金援助も年単位の一括支払いではなく、毎月小切手で払う辺り、性格の悪い部分が出ています(先が見えない赤字事業の補填をし続けるジョブズの気持ちは、理解できますが)。

しかし、トイ・ストーリーの公開前後から、印象が変わります。ディズニーから叩きつけられた不利な契約を解消するため、著者であるLawrence Levyと共に作戦会議をしてくれます。部下に対して面倒な事を言う上司ではなく、共に事業をより良くするための建設的な方法を考えてくれる上司として立ち回ります。持ち前のプレゼンスキルを活かして、要所要所で、PIXARのために動いてくれます。

   

物語の終盤では、ジョブズが柔らかい人物に変化した事が読み取れます。著者が哲学・東洋思想を学びたいと告げたら、「我々のなかからそういうことをするやつが出てきてうれしいよ」と喜びを口にします。著者がPIXARを去る際にも、「さびしくなるな。君が思うよりずっと、ね。でもしょうがない」と、若かった頃のジョブズがしなそうな発言をします。青年期のジョブズは、ブチ切れシーンばかりピックアップされているため、このような発言をするイメージがありません。

最大の驚きは、

キッチンのドアを通り、(ジョブズの)部屋まで勝手に入ってきていい

と、ジョブズが著者に発言していた事ですね。パーソナルスペースが不可侵!なイメージがありましたが、信頼できる人にはここまで心を許していたのかと、驚きました。

                           

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