Review: Kill’Em All−血染めの鉄槌−(Metallica)

収録曲

収録曲
  1. Hit the Lights
  2. The Four Horsemen
  3. Motorbreath
  4. Jump in the Fire
  5. (Anesthesia)Pulling Teeth
  6. Whiplash
  7. Phantom Lord
  8. No Remorse
  9. Seek & Destroy
  10. Metal Militia

                                                                                 

Kill’Em AllはThrash Metalの原点

Kill’em AllはMetallicaの1st Albumであり、1983年〜1990年に一大ムーブメントとなったThrash Metal(音楽ジャンル)の方向性を示しました。圧倒的なスピード感で、湿り気や泥臭さを排除した無機質なリフを弾き倒すスタイルは、過去のバンドに見られないものでした(同時期にThrash Metalバンドは複数いましたが、作品のリリースが早かったのはMetallica)。

私が本作と出会ったのは2009年(大学1年生の頃)であり、人生初のメタル音楽でした。しかし、「音質ショボ!(2009年は音圧が高い音楽で溢れていたため)」と驚いた記憶があります。本作のリリース当初(1983年時点)も、類を見ない音楽性だったためか、レビューや世間的な評価は芳しく無かったようです。本作は、一聴して良さが分かりづらい作品なのかも知れません。

とは言え、本作は後続作品の評判に引きづられてチャートに顔を出す作品でもありますし、本作をMetallicaの最高傑作とするファンもいます。Liveで演奏される曲も多いことから、Kill’Em Allは「違いなく名盤」と言えるでしょう。ここまでの演奏力とスピード感を兼ね揃えた作品は、滅多にありません(あれば、私@ARC_AEDに教えてください!! )

Metallica(特に、ドラマーのLars Ulrich)は、様々なバンド(下記)から影響を受けています。先人の音楽性を吸収しつつ、Metallica独自の解釈で、スピード感と若さ溢れる本作を産み出したと言えます。

Metallicaが影響を受けたジャンル(バンド)
  • 印象的なリフを特徴とした NWOBHM(Iron Maiden、Tygers of Pan Tang、Diamond Head、etc)
  • スピード感のあるPunk(Ramones、Motörhead、etc)
  • 伝統的なHR(Deep Purple、Rainbow、Queen、etc)

ちなみに、Larsから言及される機会が多いバンドはDiamond Head。Diamond HeadのメンバーとLarsが同居していた過去があったり、Metallicaの手持ち曲数が少ない時にDiamond Headの曲を頻繁に演奏していたので、Diamond HeadはLarsのお気に入りバンドとみなして間違いないでしょう。彼らについて語る時のLarsは、ただのファン。

                    

Kill’Em AllはDave Mustaineの影響が色濃く残る

悪く言えば、Kill’Em Allは愚直に疾走するスタイルであり、直近のアルバムである2nd〜4th Albumと比較してもその違いは顕著です。Cliff Burton(ベーシスト)が”Ride the Lightning”(2nd)と”Master of Puppets”(3rd)で持ち込んだ叙情性も、本作では見られません。「Thrash Metalは、知的ではない」と世間的な評価を受けていた事を気にして、Larsが意図的に複雑度を上げた”… And Justice For All”(4th)とも異なり、プログレッシブな要素が少なめです。

音楽性で言えば、Megadethの1st Albumである“Killing Is My Business… And Business Is Good!” が最も似ています。こちらもMetallica以上に複雑なリフで弾き倒すスタイルですが、メンバーがジャズ畑のためか、リズム感がMetallicaと異なります。

そもそも、Megadethは、素行の悪さでMetallicaを追い出されたDave Mustaine(ギター)が立ち上げたバンドです。Mustaineは、本作の4曲(”The Four Horsemen”、”Jump in the Fire”、”Phantom Lord”、”Metal Militia”)に作曲面で大きく寄与しているため、Megadeth/Metallicaの1st Albumが似通っているのも当然の結果かも知れません。

MustaineはMetallica脱退時、自身が作曲した4曲をAlbumに収録しない事を望みました。しかし、Metallica側はリリースを強行し、30年以上が経過した後でもクレジット問題が話題に上る(Musutaine本人の口からも言及される)ようになりました。このような背景もあって、Kill’Em ALL収録曲の約半分がMustaineの手による曲ですから、サウンド(特にリフ)からMustaineの顔がチラつくのも無理がないと言えます。

ここで気になるのは、Mustaineは上記4曲の中で、1曲(”The Four Horsemen” ≒ “Mechanix:Megadeth 1st Albumの曲”)だけしかMegadethの1stに収録しなかった事でしょう。他の3曲はリフこそ転用されましたが、まるごと採用された曲はありませんでした。曲に対する思い入れの差や完成度の違いなど、思う所があったのでしょうか。

ちなみに、”Mechanix”の方が”The Four Horsemen”よりシンプルな理由は、Mustaineの”Mechanix”を原曲として、LarsとCliffが中間部に”Sweet Home Alabama”(Lynyrd Skynyrdの曲)の一部を借用して、Jamesが不適切な歌詞をリライトしたのが”The Four Horsemen”だから。

               

Kill’Em All以前のJames Hetfieldは声が甲高い

Kill’Em Allの収録曲はLive定番曲が多いため、現在のJames Hetfield(ボーカル)が出す野太い声に聞き慣れている方が多いかも知れません。本作におけるJames Hetfieldは、歌唱スタイルがまだ大成しきっておらず、幼さの残る甲高い声で歌い上げています。

下の動画は、Kill’em Allリリース前のデモテープ “No Life ‘till Leather”の音源ですが、ハイトーンボーカルを目指していたのかと思う程、高い声で歌っています。ちなみに、デモテープ時のギタリストはMustaine。

           

                 

本作の仮タイトル:Metal Up Your Ass

本作のタイトルは”Metal Up Your Ass”というダサい名前になる予定でしたが、末尾に下品な言葉が含まれていたため、レコード会社が難色を示したそうです。その結果、別タイトルを考え出す必要性が出たわけですが、レコード会社への怒りが止まらなかったCliffが叫んだ言葉(”Kill’Em All”)が採用された経緯があります。

別に”Metal Up Your Ass”自体が黒歴史ワードとなったかと言えば、そうでもなく。JamesがLiveで”Kill’Em Allは、Metal Up Your Assになるはずだったんだ!!”と叫んだり(Cliff’Em Allで確認可能)、関連グッズとしてTシャツが販売されたりしています。Metallica当人たちにとっては、真面目に考えたタイトル案だったのでしょう。ダサいけど。

                               

好きな一曲

Metal Militia

初めて聴いた時から、疾走感と耳にへばり付くリフが最高!下の動画は、2011年のMetallica30周年記念コンサートで、Dave Mustaineと一緒に演奏したMetal Militia。遠い昔に別れを告げたハズの曲でも、華麗に弾き倒すMustaineの凄さ。

            

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